結論から言います。隣が田んぼや畑の発電所では、除草剤を使ってよいかどうかは「時期」と「風」と「隣で何を作っているか」で決まります。使えないわけではありませんが、判断を誤ると作物の被害額を全額請求されます。
そして、隣が果樹園の場合は話が別です。この条件では、当社は除草剤を使いません。理由は後述します。
なぜ農地の隣は、ここまで神経を使うのか
雑草を枯らすために撒いた薬が、隣の田んぼの稲にかかれば、稲も枯れます。除草剤は「雑草だけを選んで枯らす薬」ではありません。作物か雑草かを区別しないタイプのものもあります。
問題は、被害が出たときの金額です。水稲の場合、被害は面積あたりの収量で計算されます。数十アール分の収穫がなくなれば、請求額は数十万円規模になります。しかも翌年の作付けにまで影響が及んだ場合、その分も対象になり得ます。
さらに厄介なのは、薬害が出てから原因が特定されるまでに時間差があることです。散布した数日後ではなく、数週間後に生育不良として現れます。そのときに「うちの隣の太陽光が撒いていた」と言われれば、否定する材料がありません。
飛散(ドリフト)は、こうして起きる
薬剤が隣地に届く経路は、主に3つです。
1. 風で飛ぶ
最も多い経路です。散布時の霧が風に乗って隣地へ流れます。風速3m/s程度でも十分に飛びます。散布している本人は「今日は穏やかだ」と思っていても、地表付近と1.5mの高さでは風の状態が違います。
2. 水で流れる
散布後に強い雨が降ると、薬剤が地表を流れて隣地へ入ります。発電所が隣の農地より高い位置にある場合、この経路が常に開いています。造成で盛土した敷地は、ほぼこれに該当します。用水路が敷地際を通っている場合はさらに危険です。
3. 気化して移動する
これが最も知られていない経路です。
粒剤タイプの土壌処理剤には、処理後に地表面から薬剤が気化し、気象条件によって滞留した場合、周囲の樹木の下枝の葉や果実に薬害を生じるおそれがあると、製品の注意事項に明記されているものがあります。風で飛ぶわけでも、水で流れるわけでもなく、空気中を移動します。
そのため、風通しの悪い凹地など、空気が滞留しやすい場所での使用は避けるよう指定されています。
散布した日が無風で、雨も降らなかったとしても、数日後に隣の樹木に症状が出る。この経路を知らずに「風のない日に撒いたから大丈夫」と考えるのが、いちばん危険です。
★隣が果樹園なら、除草剤は使わない
上の3番目が、果樹園隣接で除草剤を使えない直接の理由です。
果樹は水稲と違い、一年で終わりません。薬害が出れば、その年の果実だけでなく、樹そのものが数年にわたって影響を受けます。被害額の桁が変わりますし、樹を植え替えるとなれば、収穫が戻るまでの年数分も損失になります。
加えて、果樹園は樹の下枝が地面に近い構造です。気化した薬剤が最も届きやすい高さに、守るべきものがあります。
当社は、隣接地が果樹園である発電所には、除草剤を使用しません。この場合は防草シートをご提案し、それも難しい場合はお受けできない旨をお伝えします。「できるかもしれない」という判断をしないと決めています。
下流側に農地がある場合も、同じ扱いです
敷地が隣の農地より高い位置にある、または敷地の水が隣地へ流れ込む地形の場合も、除草剤は使用しません。
降雨のたびに流出経路が開くため、「今回は大丈夫だった」が積み重なるだけで、リスクが下がっていくわけではないからです。
一方で、同じ高さにあり、風上側に位置する水田・畑であれば、条件を守ったうえで対応できます。同じ「隣が農地」でも、高低差と風向きで判断が分かれます。
撒いてはいけない時期がある
隣が水田の場合、次の時期は避けるべきです。
| 時期の目安 | 隣の田んぼの状態 | リスク |
|---|---|---|
| 4月下旬〜5月 | 代かき・田植え | 水を張っているため、流入した薬剤が田全体に回る |
| 6月〜7月 | 分けつ・生育期 | 生育不良・葉の変色が出やすい |
| 7月下旬〜8月 | 出穂・開花 | 最も被害が大きい。実が入らなくなる |
| 9月 | 登熟・収穫前 | 収穫物への残留が問題になる |
つまり水稲の隣では、春から秋までほぼ全期間が要注意ということになります。逆に言えば、稲刈りが終わった後の秋が、最も安全な時期です。年間の散布計画を隣の作付けに合わせて組めば、この時期に寄せられます。
畑作の場合は作付けが年に複数回あるため、隣で何を作っているかを把握していないと判断できません。
法律上、どう位置づけられているか
農薬取締法では、農薬の使用者は周辺への飛散を防止するために必要な措置を講じることが求められています。ラベルに記載された使用方法・使用量・使用回数を守ることも当然の前提です。
ここで押さえておくべきなのは、「農地ではないから関係ない」とはならないという点です。発電所の敷地は農地ではありませんが、そこから隣の農地へ飛散させた結果については、民事上の損害賠償責任が生じます。
また、作業を業者に委託していても、発電所の所有者が無関係になるわけではありません。隣の農家から見れば、被害を出したのは「あの発電所」です。
「作物にも使える薬なら安全」ではない
誤解の多い点なので、はっきり書きます。
農薬は「どの作物に、どの場面で使うか」で登録されています。水稲用の除草剤が存在するのは事実ですが、それは「田に張った水の中で、田植え後の稲に使う」ことが登録されているという意味です。隣の敷地から飛んできても稲が無事、という意味ではありません。
使用場面が違えば、薬害の出方も残留の扱いも別の問題になります。「作物にも登録がある薬だから、隣が農地でも安心」という考え方は成立しません。
安全を担保するのは薬剤の種類ではなく、どこに、いつ、どういう条件で撒くかという運用です。
それでも除草剤が現実的な選択である理由
ここまで読むと「では草刈りにすればいい」と思われるかもしれません。ところが、隣が農地の場合、刈払機による草刈りにも別のリスクがあります。
- 刈った草が風で隣の田んぼに飛び、水面を覆う
- 石や金属片が飛んで、隣地の設備や人に当たる
- 刈り取った草に付いた種子が隣地へ移る
- 年に何度も入るため、そのたびに接触の機会が増える
加えて、刈払機はケーブルの被覆を切る事故が最も多い作業でもあります。隣地への配慮を優先するあまり、自分の設備を壊しては本末転倒です。
つまり選択肢は「除草剤か草刈りか」ではなく、「どちらをどの区画で、どの時期に使うか」という設計の問題になります。
隣接農地がある発電所での考え方
実際に管理する際は、次の順で判断します。
- 隣で何を作っているかを確認する:水稲か畑作か果樹か、作付け時期はいつか。これを知らずに計画は立てられません
- 敷地の高低と水の流れを見る:発電所が高い場合、雨で流れる経路を先に把握する
- 境界からの緩衝帯を決める:隣地に接する帯状の範囲は粒剤を使わず、別の方法で管理する
- 散布の時期を隣の作付けに合わせる:作物が敏感な時期を外す
- 隣の農家に事前に伝えておく:これが最も効きます
5番目を軽く見ないでください。事前に一言あったかどうかで、万一のときの話の進み方がまったく変わります。何も言わずに撒いていた発電所と、毎回声をかけている発電所とでは、疑われ方が違います。
遠方にお住まいで、隣の農家と面識がない場合、ここが決定的な弱点になります。顔を合わせたことがないまま、敷地だけが隣り合っている状態です。何かあったときに直接話す相手がいないため、いきなり請求の話から始まります。
やってはいけないこと
- ホームセンターの薬剤を、量を増やして撒く:濃度を上げても雑草の再生は止まらず、飛散リスクだけが上がります。草種によって効く薬剤が違うので、量ではなく選択の問題です
- 風の強い日に「今日しか来られないから」と作業する:来られない日を理由に判断を曲げると、賠償で来ることになります
- 雨の直前に撒く:流出して隣地に入ります
- 境界ぎりぎりまで撒く:緩衝帯を取らないと、風向きが変わった瞬間に届きます
- 非農耕地用の無登録品を使う:農薬登録のない除草剤は、成分も残留の挙動も審査を受けていません。隣地への影響を説明できなくなります
なお、当社が使用している薬剤の製品名・使用量・希釈倍率については公開していません。敷地の条件によって使い分けるものであり、真似をして事故が起きる情報だからです。分類としては、発芽前に効かせる土壌処理剤と、生えた草に効かせる茎葉処理剤を、状況に応じて使い分けています。いずれも農薬登録のあるものだけを使用しています。
委託した場合に何が変わるか
当社は岩手県内で低圧太陽光発電所の保守管理に携わってきました。隣接農地がある発電所では、次を前提に計画を組みます。
- 隣接する農地の作付けと時期の確認
- 敷地の高低差と排水経路の確認
- 外周3〜5mの緩衝帯設定(粒剤を使わず、液剤の局所処理か鎌での手刈りで対応する範囲)
- 散布日の風・降雨予報による延期判断
- 散布ごとの記録(日付・場所・薬剤名・希釈倍率・使用量・天候・風向)
- 賠償責任保険の付保
後半2つが実務上は重要です。薬害を疑われたとき、記録があるかどうかで結果が変わります。「その日は風が弱く、外周には粒剤を使っていない」と記録で示せる状態と、記憶だけで話す状態では、まったく違います。
そして、個人で撒いて事故を起こした場合、補償するのはご自身です。年間メンテナンスは初年度77,000円〜、2年目以降99,000円〜(税込・敷地1,200㎡まで・除草込み)で、この管理を含みます。除草の考え方は除草・雑草対策のページにまとめています。
お受けできない場合も、先にお伝えします
隣接地が果樹園の場合、および下流側に水田・畑がある場合、当社は年間メンテナンスをお受けしていません。防草シートでの対応をご提案し、それも困難であれば、その旨を無料診断の段階でお伝えします。
契約してから「できませんでした」ということはありません。
隣に農地があるなら、判断を1人で抱えない
農地に隣接した発電所は、雑草を放置しても苦情が来て、薬を撒いても苦情が来る可能性があります。どちらにも倒れないためには、隣の作付けを把握したうえで年間の計画を先に決めておくしかありません。
無料診断では、現地に伺わずに分かる範囲をお伝えしています。発電所の所在地をお知らせいただければ、航空写真から敷地面積を算出し、隣接地に農地や果樹園があるか、敷地の高低差はどうか、除草剤が使用できる敷地かどうかを確認してメールでお送りします。ご自身で現地に行く必要はありません。
対応エリアは岩手県および宮城県北部です。対応エリア外の発電所についても、無料診断と単発のご依頼は承っておりますので、まずはご相談ください。
