結論から言います。岩手の低圧太陽光で雪と塩害が効いてくるのは、パネルの表面ではなく架台の脚部・ボルト・パネル下端のフレームです。しかも岩手県は市町村ごとの積雪量を定めていないため、同じ市内でも敷地によって前提が違います。
この記事は岩手の事例で書いていますが、寒冷地・積雪地に発電所を持っている方であれば、地域を問わず同じことが起きています。特に、暖地にお住まいで雪国に発電所を持っている場合、想定していない劣化が進んでいる可能性があります。
岩手には「この市はこの積雪量」という数字が存在しない
他県の記事を読むと「〇〇市の垂直積雪量は〇〇cm」と書かれていることがあります。岩手ではこれが通用しません。
岩手県は、市町村ごとの垂直積雪量の値を定めていません。岩手県建築基準法施行細則第15条の計算式に、敷地の標高と海率(周囲に海が占める割合)を入れて、敷地ごとに算出する方式です。盛岡市も同様に、盛岡市建築基準法施行細則第15条の計算式で標高から求めます。ちなみに凍結深度についても、岩手県は「県では定めていません」と明示しています。
これが何を意味するか。同じ市内の発電所でも、標高が違えば雪の前提が違うということです。国道沿いの平地と、そこから車で15分登った高台の造成地では、乗る雪の量が変わります。「この地域は雪が少ないから大丈夫」という感覚が、いちばんあてになりません。
現地に行ったことがない場合、この差はまったく見えません。「岩手県〇〇市」という住所だけでは、その敷地がどの前提で建てられたのかは分からないということです。
垂直積雪量1mが、どれくらいの重さか
計算で出た垂直積雪量が1m以上になると、その敷地は多雪区域として扱われます。多雪区域の積雪の単位荷重は、盛岡市の細則で積雪量1cmごとに1㎡あたり30ニュートン以上と定められています。
つまり1m積もる前提の土地なら、1㎡あたり3,000N。重さに直すと約306kgです。一般的な低圧用パネル1枚が約2㎡ですから、パネル1枚に600kg前後が乗る前提ということになります。
これは建築物の基準であって、太陽光の架台の設計基準そのものではありません。ただ、その土地にどれだけ雪が積もる前提かを示す、数少ない公的な数値です。設置から10年以上経った発電所が、この荷重を毎年受けている、という事実だけは押さえておく価値があります。
そして、ご自身の発電所の架台が、どの積雪荷重で設計されているかは、設置時の仕様書に書かれています。これを一度も確認していない発電所は少なくありません。書類を探すだけなら、遠方にお住まいでも今日できます。
雪が壊すのは、パネルではなく「その周り」
雪の被害というとパネルが割れる絵を想像しますが、実際に傷むのは周辺部です。
1. 滑り落ちた雪が当たる場所
低圧の野立ては傾斜がついているため、積もった雪は塊のまま下端から落ちます。落ちた先に接続箱・ケーブル・雑草押さえのブロックがあると、そこに毎年打撃が入ります。パネル下端のフレームが少しずつ曲がっている発電所は、たいていこれです。
さらに、落ちた雪がパネル下端に積み上がると、次の雪が滑れなくなります。本来は自然に落ちるはずの雪が、架台に乗ったまま残る。設計上の想定と違う状態が冬の間ずっと続くことになります。
2. 地際の凍上(とうじょう)
寒冷地では、地面が凍って持ち上がります。スクリュー杭や単管の基礎が冬に押し上げられ、春に下がる。これを毎年繰り返すと、杭が抜け上がって架台がねじれ、ボルトの締結が緩みます。前述のとおり岩手県は凍結深度を定めていないため、施工時にどこまで考慮されていたかは発電所ごとに違います。
暖地の施工実績をそのまま持ち込んだ架台は、ここで差が出ます。凍上を前提にしていない基礎は、数年で動き始めます。
3. 見えないマイクロクラック
荷重でセルに微細なひびが入っても、外観は割れていません。出力が数%ずつ落ちるだけなので、明細を見ていても気づけません。ここは点検の対象として明確に分けて扱う必要があります。
4. 除雪そのものによる破損
これがいちばん多い。スコップやデッキブラシでパネル表面をこすると、ガラス表面のコーティングに傷が入ります。パネルの上に乗るのは論外です。発電を早く戻したいという理由で雪を落として、壊してしまうのが典型的な失敗です。
ただし、積雪が設計荷重に近づいている場合は話が別です。発電が止まっているだけなら放置でよく、架台が潰れる可能性があるなら動く。この線引きは冬の管理の記事にまとめています。
沿岸部は、これに塩が乗る
海の近くに発電所を持っている場合、雪とは別の劣化が同時に進みます。
太陽光機器のメーカーは、おおむね次のように区分しています(区分の距離はメーカーによって差があります)。
| 区分 | おおよその範囲 |
|---|---|
| 岩礁隣接地域 | 波しぶきが直接かかる場所 |
| 重塩害地域 | 海岸からおおむね500m以内 |
| 塩害地域 | 海岸からおおむね2km以内(外洋側では7km程度までとする例もあり) |
問題は、この区分が「設置してよいか」の話であって、「設置後どうなるか」の話ではないことです。塩害地域の仕様で建てた発電所でも、10年経てば塩は溜まります。
購入時に塩害の説明を受けていないケースも珍しくありません。土地が安いという理由で沿岸部を選んだ場合、その安さの一部は、この条件を引き受けた対価です。
塩が溜まるのは、雨が当たらないところ
塩分は雨で流れると思われがちですが、流れるのは雨が当たる面だけです。実際に腐食が進むのは次の場所です。
- ボルト・ナットの座面(部材と部材の合わせ目)
- パネル裏側のフレームと架台の接触部
- アルミの架台にステンレスのボルトを使っている箇所(異種金属接触腐食)
- パワーコンディショナの吸排気口の内側
- 接続箱の端子部
いずれも、遠目に全景を眺めただけでは見えない場所です。年1回、現地を一周して「特に問題なさそうだ」と判断していても、この5か所は確認されていないことがあります。
溶融亜鉛めっきは、白錆が出た段階ではまだ効いています。赤錆が出たら母材が減り始めているサインです。この線引きを知らずに「錆びているから全部やり直し」と言われて数百万円の見積を出されるケースがあります。どこまでが手当てで止まり、どこからが交換なのかは、現物を見ないと判断できません。
雪と塩が同時に来る地域がある
冬の季節風は塩分を内陸側へ運びます。そこに融雪と凍結の繰り返しが加わると、塗膜やめっきの微細な割れから水と塩が入り、内側から腐食が進みます。沿岸の発電所で「海から1km以上あるのに錆が早い」というのは、たいていこの組み合わせです。
全国向けのメンテナンス記事は、この2つを別々にしか扱いません。岩手・宮城北部をはじめとする東北の沿岸で起きているのは、両方が同じ設備の同じ場所に効いている状態です。暖地の基準で「この程度なら大丈夫」と判断すると、進行の速さを見誤ります。
いつ、どこを見るか
雪と塩の影響を確認する最適な時期は、雪解け直後の春先です。冬の間に動いたものが、雑草に隠れる前の状態で見えます。草が伸びると地際が確認できなくなります。
ここが遠方保有の弱点になります。年1回の現地確認を夏に設定していると、雪解け直後という最も重要な時期を毎年外し続けることになります。しかも夏は草が茂っているため、地際は見えません。「毎年見に行っているのに、地際は一度も確認していない」という状態が成立します。
現地で見るべきは次の5か所です。
- 架台の脚部・地際:杭が抜け上がっていないか、周囲の土が沈んでいないか
- ボルトの座面:赤錆が出ていないか、緩みで隙間ができていないか
- パネル下端のフレーム:変形、雪の落下による打痕
- ケーブルと接続箱:被覆の傷、支持クリップの外れ、地面に垂れていないか
- パワコンの吸排気口:内側の腐食、フィルタの詰まり
ただし、通電している設備です。接続箱やパワコンの内部、被覆が傷んだケーブル、法面や高所には近づかないでください。太陽光パネルは日が当たっている限り止められません。外から見て異常を見つけるところまでがオーナーの範囲で、そこから先は感電と火災の領域です。
点検を委託した場合の費用
当社は岩手県内で低圧太陽光発電所の保守管理に携わってきました。年間メンテナンスは初年度77,000円〜、2年目以降99,000円〜(税込・敷地1,200㎡まで・除草込み)です。低圧の年間メンテナンス費用は全国的には年10万〜15万円前後が相場とされており、除草が別料金になっていることも少なくありません。
訪問は春期(3〜6月)と秋期(8〜11月)の年2回です。春の訪問で、冬に動いたものを草が伸びる前に確認します。そのつど写真17枚の報告書をお送りしますので、雪解け直後の状態を、現地に行かずに確認していただけます。立会いは不要です。
点検で何をどこまで見るかは点検内容のページに、料金の内訳は料金ページにまとめています。
まずは現状を確認するところから
「雪が多い年だったが、何か起きているかどうか分からない」という状態が、いちばん損をします。パネルの出力低下も架台の傾きも、進行してから直すほうが高くつきます。
無料診断では、現地に伺わずに分かる範囲をお伝えしています。発電所の所在地をお知らせいただければ、航空写真から敷地面積を算出し、標識やフェンスの状況、除草剤が使用できる敷地かどうか、概算の費用をメールでお送りします。ご自身で現地に行く必要はありません。
対応エリアは岩手県および宮城県北部です。宮古・釜石・大船渡といった沿岸部は年間メンテナンスの対象外ですが、単発の除草剤散布・架台の錆補修はご相談いただけます。対応エリア外の発電所についても、無料診断と単発のご依頼は承っております。
